真夜中のアリス

近付いて耳を澄ませば…、燃えるゴミの箱の方から何やらぴゅうぴゅうと春に吹くような穏やかで、でも時折見せる激しさがある風の音が耳に入ってくる。
それがやけに気になり何も考えず引き込まれるようにすぅと蓋を開ける。そして、覗き込もうと体を曲げる。
案外、底は深めに作られているらしい。背伸びをして中を覗き込む。ゴミ袋は入っているようで、中身は何も入っていない。新品同様だ。何の変哲のない普通のダストシュート。見て損した、そんな気分になり体勢を戻そうと少し動かし始めたと同時に、ふわりと身体を持ち上げられ、宙に浮くような感覚。

「えっ!?…きゃあああ!!!」

その力に抗うことが出来ずにあたしはそのまま、ゴミ箱の中へと…転落した。
叫びは谺することなく、夜の闇に溶け、この街から姿を消した事実を誰にも気付かれることはなかった。
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