真夜中のアリス
待って…!そう叫ぶも届かず。
黒髪はそっと、自由に空を舞う鳥や蝶の如くあっという間に姿を隠す。背を追って駆け出すも、気付けば視界には人一人、誰として捉えることはなかった。
「…あ、れ…?見間違い…したのかな…?」
目を擦って、もう一度正面に戻す。やはり、目の前には人ひとりいない淋しさを物語る古びた(感じがする)路地。
そんな中、風にのってやってきた、ふわり軽やかで何処か懐かしい香り。
忘れる筈がない
忘れられる筈がない。
記憶に焼き付かれたそのフレーバー。
臭覚を介して怖れていた記憶が甦る。
「…っ!…ゃっ、ぃ…や…嫌…!朱鳥くん…っっ!」