俺は、天真爛漫なあのコに流されている
麻衣は、湯川が抱いているそいつのアゴを指でコチョコチョ。
無邪気なヤツ。初対面の湯川に対し全然人見知りしないし……。
「最近の京兄、珍しいよねー。猫を拾ってきたり、彼女作ったりで。
ねー『ショコラ』もそう思うでしょ?」
げっ!
俺の事情なんか知るはずもない麻衣は、悪気もなく無邪気にバラした。
更に反応して「ニャアー」と甘えるように鳴く『ショコラ』。
「え、ショコラ? このコ、ショコラって言うの?」
湯川は、不思議そうに訊いた。
「はい、そうなんですよー。このコにピッタリの名前ですよねー 。誰がつけたと思いますぅ?」
ま、麻衣ストップ!
「えーと、麻衣ちゃんかな?」
「と、思うでしょ? 実は……この京兄だったりするんですよー!」
「え、えー!? 猪瀬が!?」
バ……バレた。
マズい……かなりマズい。湯川、かなり驚いてる。
なんか俺、変な汗かいてきた。
そう。コイツの名前は――ショコラ。
わざとではないにしろ、結果的に湯川が名付けたのを、そのままパクってしまったということだ。
「ねぇねぇ、京兄。上がってもらおうよぉ。私、果奈さんと女子トークがしたーい」
「いやっ、今日はいいって! もうすぐ帰すから!」
「えー? ゆっくりしていってもらえばいいのにぃー。お母さんだって、もうすぐ帰ってくるのにぃー」
麻衣は、湯川を離そうとしない。
だから、いきなり親にまで会わすわけにはいかないんだって。妹に会っただけでガチガチの湯川が、親にまで会ったらガチガチどころじゃなくなる。
いや。今は俺の方が違う意味でガチガチだ。
「また今度、ゆっくりな」
「えー……はぁーい、わかりましたぁーっと。
果奈さん、また絶対に遊びに来て下さいねっ!」
「う……うん。ありがとう、麻衣ちゃん」
「ショコラ、おいで。二人きりにしてあげましょうねぇー」
麻衣は、そうっとショコラを湯川から取った。
ショコラも同意をするように「ニャアーン」と一鳴きする。
ショコラ、お前まで気を使ってるのか?