俺は、天真爛漫なあのコに流されている

「うわ……俺、気持ち悪かっただろ? ガラにもないことしててさ」

「ううん、そんなことなかったのっ」

「え?」


「確かに、私最初……猪瀬が苦手だったんだ。何か固そうだし、剣道のこと以外興味なさそうだし」


 あ。やっぱりそう思ってたのか。わかってはいたけど、実際言われてみると少しショックなもんだな。

 だけど、それが何で俺のことを好きになるまでに至ったんだろう。


 それは――そのあとに続いた湯川の話でわかることに。


「だけど……猪瀬が、あの子猫ちゃんを抱えて『可愛いな』って言った顔が、すごく優しくて、柔らかくて……。
 私の中の猪瀬のイメージが……180度ぐらい変わっちゃったんだ」

「…………そ、そうなんだ……」


 ……は……恥ずかしい……。

 そんなこと、言われるとは思わなかった。

 ……ん? てことは――


(さっきの湯川みたいな、思いやりのある飼い主だったら、お前も幸せだっただろうにな)


 それから先の、自分が自然と口から漏らしたセリフを思い出しながら――

「まさか、それから先も……聞いてた?」と、湯川に恐る恐る訊いてみた。

 そしたら案の定、


「……ごめん……聞いちゃった……」

「っ、うわぁー……それって俺、めちゃくちゃイタイヤツじゃん」


 思わず頭を抱えた。

 てことは、全部見られてて聞かれていたってことかー。

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