俺は、天真爛漫なあのコに流されている
「…………」
三人の姿が完全に見えなくなったのを見計らい、玄関先の段ボールのそばに歩み寄った。
通り過ぎるつもりだったのに、なんか……湯川の悲しげな表情が頭にこびりついて、子猫を見ずにはいられなくなってしまった。
しゃがんで中を覗いてみると、子猫は中でちょこんと座っていた。俺を不思議そうに見上げている。遠目で見たときは真っ黒な猫だと思ったけど、近くで見ると焦げ茶色も混じっている。
「お前、どっから来たんだ?」
ふいに話しかけてしまった。もちろん、しゃべるわけもなく、子猫は「ミャアー」と一鳴きするだけだった。
段ボールに両手を差し入れ、そうっと持ち上げてみた。
うわ、軽っ。握り過ぎないようにしないと。
子猫は俺を見ながら「ミャーミャー」と、さっきみたいに鳴き出し、足をちょこまかと動かしている。毛の触り心地もフワフワしていて、何だか気持ちがいい。
こうして間近で見ると、
「ふーん……本当だ。はは。可愛いなー、お前」
ガラにもなく自然と笑いが漏れた。動物に興味ない俺でも、見てると心が綻(ほころ)んできてしまう。
なるほど。あの三人が『かわいー』って騒ぎたくなる気持ちが、今ならわかる。