世界の嘲笑にアルカイックスマイルを
なにか言われる前に、言葉を重ねる。
『学校出るまではシート倒して顔隠しとけよ』
素直にシートを倒した彼女は、上目遣いになって笑う。
「もう暗いのに。心配性だね、その心配は誰へのかな」
『……そりゃ勿論』
「ほら早く帰ろう」
自分から聞いといて、彼女は返事を聞こうとはしなかった。
そういうところが、ずるいんだって。
運転しながらも咲倖に視線を向ける。
うとうと、舟をこぎながらも意識を保とうと頭を振っているのが、どうしようもなく可愛く見えた。
『寝てていいよ』
「だいじょうぶ……」
そうは言いつつも全然大丈夫じゃなさそう。ぽんぽん、頭を撫でれば猫のように目を細めた。
「猫みたいだな」
「んー、せんせ飼いたい?」
「…………さあな」
目を閉じたままの彼女を横目で見つめる。
「のらねこは、どっかに、行っちゃうよ」
ゆっくり、舌ったらずに紡がれるその言葉に、反応してしまう。
「なに、どこかに行きたいの?」
「んんー」
「じゃあ、ドライブするか」
「わぁい、海いきたい」
「目、覚めたのか」
「うん海」
「ここからだと3時間はかかるぞ」
「いーよ、お泊まりすれば」
「…………明日も平日だけど」
「そうだっけ?」
ふふふ、と笑う彼女に背くことは出来なくて車線変更すると、高速道路に乗り込んだ。
ガー、と彼女が窓を開けたので、強く風が吹き込んでくる。
「寒くないのか」
「さむいー」
「閉めろよ」
「やあだ、せんせにあっためてもらう」
「……馬鹿」
「風邪ひいたら看病してね」
「…………」
答えなくても、俺の答えを察したらしい彼女は満足げに微笑んで窓の外に目を向けた。