世界の嘲笑にアルカイックスマイルを
「せんせ入学式あるんでしょ?行っていいよ」
『いやでもな、』
「わたしなら大丈夫。
それともわたしが元気になるの待って、したいの?」
上目遣いがここまで決定的に遣われているのを見たのは初めてで
こいつ小悪魔なんかじゃない、魔女だ。
艶やかに響くリップ音にそれを確信した。
そのまま、勢いをつけて彼女に背を向けた。
「ばいばい、せんせ」
『……気をつけて帰れよ』
別れの言葉を交わしたはずなのに、扉を開けて廊下に出た瞬間、ぎゅっと後ろから腰に腕を回して抱きつかれた。
『な、に』
「ふふふーせんせ忘れもの」
彼女の腕のなかでくるりと振り向くも腕を離そうとはせずにこにこ笑っている、
『忘れものって?』
「えー気づかないの?」
腕の力が強くなって二人の距離がなくなった。
腹同士がくっついているが彼女が頑張って上を向いてくるから辛うじて目は合う。
『廊下、誰が来るかわからないんだから、離せ』
「スリルあって楽しいじゃん。ん?なら廊下じゃなかったらなにしてもいいんだ?」
『なに、キスしてほしいの』
顔を傾けながら聞けば
「んーせんせしゃがんで」
無視かよ、ため息を落として彼女と同じ目線までしゃがめば首元に回ったそれ。
『ああ、ネクタイ』
「完全に忘れてたでしょ」
からかうように笑って、彼女はボタンを止めネクタイを結び始める。
「はーいできた」
ちょっと緩めに縛られたそれは想像以上に綺麗に纏まっていて、思わず
『何、おまえいつもこういうことしてるのか』
「さあね。お望みならいつでも結んであげるよ。やっぱり、制服もスーツもネクタイあった方が格好いいからね」
意味深なそれは聞かなかったことにして
今度こそ、彼女から離れて急いで職員室へ戻った。
結局煙草吸ってないし、遅刻して軽く注意されるし、なんやかんや彼女に振り回されたなと自分にため息を送った。