【続】興味があるなら恋をしよう
「失礼します」

初めて入る部長室。
入室すると、ガラスにスモークがかかった。

ほぉ、なんだかお金の掛かってる部屋だな。
広さは六畳くらいはあるかな。
中に居ても普段もガラス張りだから圧迫感は無いかも知れない。

関係性が夫婦であると、個室で、…しかも、外から見えなくなると…。
…大丈夫かしら。
社員の目が気になるんだけど…。

「紬?部長は何か言っていたか?」

控え目な応接セットの椅子に座るように促された。
課長も隣に座る。

…いけない。部長だ。

「特に取り立てて話すような事は何も無かったと思います。
ただ、課長に無理を言ったとは言ってました」

「…そうか。いつも、短い時間だけど、紬と話が出来て楽しいと言っている。
今城部長はな、紬に会いたかったんだ」

「え?」

「ほら、俺達は式だとか決めていないだろ?
結婚相手が社内に居るんだから、普通は上司に挨拶をしに行くものだろ?」

あ!忘れていた。

「俺が紬を連れて挨拶に行かなかったからいけないんだが。
婚姻届を出した後、仲人をお願いします、って話が未だ出来なかったからな…。
何も決めていなかったから」

確かに。部長に挨拶に行くと、そんな話にもなるんだ…。

「藍原紬という人物を知りたかったそうだ。
だから、呼ばれたんだよ」

「え」

「俺の奥さんだから…顔を見て、話をして置きたかったそうだ」

「…はい」

「…部長は体の具合があまり良くないんだ。この事は俺しか知らない。
だから、俺に…だ」

あ、…では、何れ退職されるのだろうか…。

「正直なところ、俺はまだ課長で居たかったんだ。
だから、この部屋を作ってくれるならと、我が儘を言ってみた。
尤もらしい理由を述べてな。
部長といえども、日々、部下の様子を知らないで指示は出せません。
別室に篭って居ては、見えるモノも見えて来ませんから、とかね。
いかにも、それらしいだろ?」

普通に上司としていい考え方だと思う。
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