【続】興味があるなら恋をしよう
「藍原」

「はい?」

私の席迄来る事は珍しい。
椅子を回して振り返った。

部長は少し前屈みになって囁いた。

「ごめん。今夜は遅くなる。先に休んでてくれ」

あ、…。部長?

「…お詫びだ」

掌で隠すようにして首筋に唇が触れた。
え…ぶ、ぶ、ぶ、部長!
か、か、会社ですよ?!
どうして、こんな事…。
バレないと思ってないですよね?
だって、ほぼ女子社員、席に居るんですから。
…見て見ぬ振りですよ、みんな。
はぁ、とか、ほぉ、とか、熱い溜め息が聞こえて来てますよ?
おまけに、頭をポンポンして行くから。


「あ〜ん、私もポンポンされたいです。
部長が、こんな甘い人だなんて、思いませんでした」

「そうそう。課長の時は爽やかでフレンドリーな感じが前面に出てたのに。
それはそれで良かったけど」

「なんか〜、今って〜、男の色気?みたいなの、溢れてますよね〜。いや〜、素敵が増してます〜」

「仕事一筋、みたいなのから、ちょっと、変わったわよね〜感じ」

「いや、前からシュッとした顔と体つきだったけど、前にも増してスーツ姿とか、萌えるわ〜」

……。

部長。
ホストみたいに言われてますよ…。

「これは、藍原さんと籍を入れてからよね」

「そうそう。恋愛期間をひた隠しにしてたギャップかもね」

「溢れる色気を隠してたって事かなぁ?」

「そう。仕事だけですって見せてたのよ。中々出来ないわよね。そうやって、藍原さんを守り続けていたのよ。
うちらの社員からね」

…私、ここに居るんですけど。お構いなしですね、みんな。
ん?うちらの社員?

「あの、うちらの社員て?」

「あ。藍原さん、男性社員に人気なんですよ?
先輩にも後輩にも。ね〜」

「そう。だけど、長〜く付き合ってる“彼”が居るんだから、無駄よって。私達、聞かれたら、無理無理、駄目よって、そう言ってたのよね?」

「そうそう。みんな私達の言葉で玉砕よね〜」

「そう。意気地が無いんだから。好きなら頑張れってね」

「でも、結果はやっぱり駄目だったよね。部長相手じゃ、無理無理」

「そうそう」

…これって、何?
私は知らない事が有り過ぎたのかしら?

そう、いつの間にか、部長が長く付き合ってた人にされて、話は丸く収まっているし…。
もう、敢えて否定もしませんが。
話に花が咲き過ぎでしょ。止まらない。

「坂本課長も、ね〜。
俺と藍原の仲だろ、なんて、キャー、あれは、転勤してきたての、掴みはOK的な坂本ジョークだったのよね〜」

「女子社員をドキッとさせるなんて、上手いわよね〜」

「そう!気の引き方?慣れてるって感じで。
女性の扱いとか、上手そう」

…最早、全男性社員一人一人の話に発展しそうな勢いだ。
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