【続】興味があるなら恋をしよう
ピンポ〜ン。え?…坂本さん?
カチャ。
「は、い」
…あ、あ。
「帰るぞ」
課長…。息を呑んだ。
「…随分と驚いた顔だな。ああ…、伝えた時間よりかなり早かったからか?
とにかく、帰ろう。一刻も早くここから立ち去りたい。車だ。あ〜、だから早く着いたんだ。
俺は今夜は素面だ。烏龍茶ばかり飲んでいたからな。
それは?」
中の物が溢れるくらい膨らんでいるコンビニの袋。
課長がこんなにツラツラと話す時は…、恐いくらい冴えている時。
「これは…今夜と明日のご飯とか、色々です」
「随分と有るな」
…。
「はい。今夜、こっちに居るつもりで…。あまり、お店で食べられなかったのもあって。それに、明日も明後日の分もありますから」
明らかに冷蔵庫無しでは日持ちしそうにない物が紛れていても、そう言うしかない。
「…行くぞ」
腕を取られた。
「え、あ、待ってください」
荷物がここにあって、パンプスもきっちり履いた状態だ。
部屋に上がったようには見えない。少なくともとっくに帰って来てたはずだろ。
少し色を取り去られた唇…。そんな…切ない、潤んだ目をして…。
「あ、荷物…コンビニの」
「いいから、行くぞ」
「あ、駄目です。良くありません。食べ物に罪はありません。それに置きっぱなしには出来ません」
…罪は無い、だと?…何を買おうか、と二人でじゃれあって買ったものだからだろ。
では、そんな顔をしている自分には罪があるとでも言うのか。…罪、か。
…置きっぱなしには出来ない、か。
「はぁ。…悪かった…」
カッとなってしまった。…らしくない、落ち着け。
「俺が持とう。これでいいな?…さあ、明かりを消して、鍵を掛けるんだ。帰るぞ」
「…はい」
部屋の明かりのスイッチを切った。奥が闇に包まれた。
玄関の明かり。
パチッと消した。
ドサッと物が落ちる音がした。
……課、長…。
暗闇の中、引き寄せられ痛いくらいきつく抱きしめられた。
「藍原…今ここで、衝動に任せて目茶苦茶に抱きたい気分だ。…解るか?だけど…、はぁ。自分にも…負けた気になりたくない。だからそんな事はしない」
恐いくらい低い声。課長は…知っている。…何かあった、…それを知ってる…。
「藍原をこんな顔つきにさせてるコトに…腹が立つ…」
あ、あ、…ぁ。
「明日、荷物を運ぼうと思う。構わないよな?」
あ。
「構わないよな?」
「…はい」
…。
「…うん。休みだから俺が一人で運ぶ。藍原は来なくていいから。俺の部屋に居てくれ。鍵は預かる」
ドアの外で掛けたばかりの鍵を課長に渡した。…ここには来させない。これが意味するモノ…。
車の中ではずっと無言だった。
だけど、私の右手は課長の大きな手にギュッと握られていた。