【続】興味があるなら恋をしよう
藍原の部屋から荷物を運び出す為、部屋に入った。

急に決めて、…半ば無理矢理だな。

突然来てしまったから、まだハンガーに掛かったままの服があった。
カーテンレールに掛けられているそれらを箱を一つ組み立て、中に終った。

バスルームのものも忘れないようにしなくちゃな。
ざっと各部屋も見回してみた。

ゴミは少ない。
出したばかりかも知れない。これも纏めて持って帰ろう。

そうして、車と部屋を往復して、何度目か。
連絡しようかどうか、来た時から迷っていた。

何も無い部屋に鎮座しているモノ。
これはどうなってるんだと思ったからだ。

確かに、まだ生活していたのだからあって当然は当然。
運んでくれとは言われていない。
言われても急に運べる代物では無い。

業者に処分を依頼してあるのかも知れない。
聞いてみようと思ったが止めた。
言われた物は段ボールの荷物だからだ。

いきなり業者を呼んで処分する事も出来る、簡単な事だ。
いいや…やっぱり止めておこう。

何となく気になりながらも、全て車に運び終わると帰って来てしまった。
一度で済んだ。

来月中には処分するつもりでいるのだろう。
そう思って納得した。



日曜は人の動き始める時間も遅い。
エレベーターのドアを荷物で停め、運び込み、一度で一気に運び込む事にした。

藍原の荷物は思っていた程ではなく、少なかった。
極端に重い箱が一つあったが、他は殆ど衣類だろう。
一人で運んでも疲れる程ではなかった。

部屋のドアをストッパーで止め、なるべく音を立てないように運び入れた。

最後の一つを運び終わり、藍原の様子を見に寝室に入った。


近付いて覗き込んだ。
穏やかな息遣い、よく眠っていた。

涙の跡が少し残っていた。
拭ったつもりだったけどな。
ベッドに腰を降ろし、額に掛かった髪を指で流した。
涙の跡に口づけた。

震えるように泣いていた藍原の中で、何かが少し変化したのではと思った。
一方的に話すつもりは無かったが、俺も大人げなかった。無理に、気持ちを押しつけたかもしれない。無理に気持ちを向けさせても、駄目になる。…長くはもたない。
急かせて、追い込むような事はしたくないと思っているのに…。はぁ。

…藍原、…起きるかな。
薄く開いて寝息をたてているその唇に、唇をそっと重ねた。
…ん。長いのも、深いのもダメだな…、我慢我慢だ。…ふぅ。

この唇………。指で触れた。
もう誰にも触れさせたくないんだよ、紬。
はぁ、俺って、こんな嫉妬深くて独占欲の強い男だったんだな。

…。

フ…紬のせいだぞ?


「行って来るよ」

ワシャワシャと頭を撫でた。
ぉおっと、里緒じゃないんだった。
無邪気な寝顔を見ていたら、つい、な…。
今度は頭を軽くポンポンとした。
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