【続】興味があるなら恋をしよう

課長は荷物を運んだあの日、夜になって帰って来た。実家は車でそう遠い距離ではない。午前中から出掛けた事を考えると、実家にそれ程長居していたとも思えなかった。
では、夜まで何をしていたのだろう…。
聞く事はしなかった。

課長の居ない日中、私は段ボールを開け、終っても良いと思われる場所に洋服等を片付けた。片付け自体は直ぐに終わった。
クローゼットを開けた途端の事だった。空きスペースが作られているのが目に入った。
課長はこの時の為に、自分の物を整理してくれていたんだ。いつでもいいように、とっくに空けて待っててくれていた。
引き出しを開けると、下着を入れるスペースだってちゃんとあった。
…課長という人は…。
帰って来たら何て言おう。そう言えば、何時になるか解らないって事だったんだ。
予めそう伝えて行ったのだから、連絡はしない方がいい。
帰る迄は課長の時間だ。私は待っていればいい。
そして、それは、私にも、一人になる時間をくれたという事になる。
いつ帰って来てもいいように、ご飯の用意はしておけばいい。
キーマカレーにしようかな…。温め直すにも、カレーなら心配無い。食べなくても冷凍保存出来る。
私はいつもの時間になったら食事は先に済ませておこう。
そして、いつものようにお風呂に入り、いつものように居ればいい。
遅くなりそうなら、起きていないで先に寝ていよう。

そして課長が帰って来たのは、私が寝室に入ってからの事だった。
テーブルのメモを見てくれたようだった。
やがてご飯を済ませ、お風呂を済ませた課長は、寝室に入って来た。
もしかしたら、今夜はここに入って来ないかも知れないと思っていた。
昨夜を最後に、一緒に寝る事も、止めてしまうのではと思った。

オレンジの明かりの中、ベッドに入って来た課長は、小さく、ただいまと言った。
何も応えない私だけど、起きている事を知っているのかも知れない。
背を向けて寝ていた私を反転させるとグッと抱きしめた。…えっ。…ドキッとした。
眠っていたとしても、こんな事をしたら、目は覚めてしまうって解ってしている。
ほんのりだけど、お酒なのか、甘い匂いがした気がした。
頭にキスをされた。…額にも。そして、ギューッと抱きしめられた。
何も言わない。
それ以上何もしなかった。

肩が震えた。
課長の胸の中で体が震え、涙が出た。
頭を胸に押し付けるようにして、ギュッと抱き込められた。
…凄く辛く、切なくなった。
課長…。
ドクン、ドクンと大きく脈打つ鼓動が聞こえた。
…何も出来ないもどかしさ。
課長に腕を回した。
ギュッとした。
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