【続】興味があるなら恋をしよう
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ピンポン。……誰だよ。
カチャ。
「はい。……課、長…」
確認もしないでいきなり開けるんじゃなかった。だけど居留守もできない相手といえば相手か…。
「驚かせたな。休みの日にいきなり訪ねて来て悪いと思っている。都合がつくなら、少し話が出来ないかなと思って。下りてきてくれるか。車で待ってる」
本当…いきなりだ。
「はい。着替えて直ぐ出ます」
「解った。悪いな」
「いいえ」
都合が悪いなんて言って断る事は出来ない。そんな状況じゃない。
…昨日の今日だ。
これは行くしかないだろう。
ゴロゴロしていたスウェットの上下を脱ぎ、急いで着替えた。
普段着を多少箱から出しておいて良かった。
「すみません、お待たせしました」
運転席の課長に声を掛けた。
「いや。乗ってくれ」
中からドアを開けてくれた。
急いで助手席側へ回り込んだ。
「すみません、お邪魔します」
車はゆっくりと公道へ出て走り始めた。
「昼回ってるけど、何かもう食べたか?」
「あーいいえ、これと言って食べてはないです」
朝から食欲の事は忘れていた。
「俺も未だなんだ。どこか…、個室のある店に入るか…。
…ここら辺…あるか、な。坂本が行ってるとこは避けた方がいいだろ」
車を走らせながら、課長は首を動かす。
個室、か。
話があるって事だから、そうなるか。
…。
「実家に行ってたんだよ、さっきまで」
「え」
「あぁ、藍原のな」
…そうなんだ。
「一人でだけどな」
え、藍原が?…じゃないよな。
「二人で挨拶は済ませてたんだけど、今回は俺一人」
課長が一人だけで行って…。
藍原抜きでの話か。どんな用があったんだ。…まさか……いや、そんな俺に都合のいい話なんかではない、よな。
…もう挨拶は済ませたんだ。当たり前か、課長は結婚するつもりなんだし。
無意識に課長を見ていた。
「ん?」
げ。…考えていると対象者に目がいってるもんなんだな。
「あっ、そこ、そこなんてどうだ?…開いてるかな」
「あ、俺覗いて来ますよ」
側道に入り、寄せたところで、シートベルトを外して降りた。
…はぁぁ、別に何だっていい。軽く駆けた。
『商い中』になっていた。
どうやら大丈夫そうだ。
一応店の中に入り、個室に空きがあるか確認した。大丈夫だと言う。
「課長、OKです。店の裏手に駐車スペースがあるそうです」
車に戻り告げた。
「有難う、じゃあ停めて来るよ」
店の入口で課長を待つ事にした。
藍原と俺に何があったか、間違いなく知っているはずなのに、その事には何も触れない。
…それをこれから言われるのか。それとも触れないつもりなのか。
責められるより、何も言われない方がキツイって、解ってますよね。