【続】興味があるなら恋をしよう
「なんだか早いのか遅いのか。今月一杯になったな、部屋の契約。」

…。

「…あ、はい。はい、そうですね」

「大丈夫か?言わなくてもいいとは言ったが、ご飯作ってる時も…はぁ、危なっかしくて」

左手を取られた。

「…怪我するし」

絆創膏を貼った人差し指に触れた。

「ズキズキしないか?
切ったのはちょっととはいえ、指先は痛かっただろ…」

包丁の先が少し当たって切ってしまった。血は直ぐ止まった。
絆創膏には今うっすら血が滲んでいた。

…。

調理中、私の痛っという声を聞き付け、課長は飛んできた。
指を強く掴むと水で洗い流し、乾いたタオルでギュッと包まれた。
このまま持ってて、そう言うと椅子に座らされた。

救急箱から絆創膏を取り出した。
タオルを外すと血は止まっていたようだけど、またジワッと滲んできた。
絆創膏を巻き付けた。

「下向きにしたら心臓があるみたいにバクバク痛むよな?ちょっと肘ついてこうしてよう。
本当は漫画みたいにパクッと口にくわえたかったけどな」

「え?」

「あれは…、あの行為は、真面目な話をすれば、傷に雑菌を入れてしまうらしいからしない方がいいんだ。
…傷の無い時にするよ」

「ぇえっ?」

ジッと見たら課長は至って真面目な顔をしていた。


そんな事もあり、洗い物は俺がするからと言ってくれたのだけど、大した傷では無いし、量も少ないからと丁重に断った。
傷の部分は事務用の指サックをして濡れないようにしてみた。
結局、濡れたから意味は無かったけど。


ポケットから絆創膏を取り出し、濡れた絆創膏を剥がしティッシュペーパーで指を拭いた。

「なんだ、濡れてるじゃないか。だから俺が洗うって言ったのに。
平気だからって…紬は強情だからな。
貸して、俺がする」

愛おしいものを見るように、課長が絆創膏を貼り直してくれた。

何となく、基本、これは私の仕事だからと思っていると、してもらう事が甘えてるみたいで…。

出来ない程の大怪我でも無いし。でも…、頼むことも時には大事なのよね…。

「痛いか?」

心配そうに聞かれた。

「え?あ、大丈夫です。有難うございます。子供じゃないからこのくらい平気です」

左手は課長の手の中に包まれたままだ。

「…紬、…俺の事、好きか?」

あ、…。

「はい、好きですよ」

真っ直ぐ課長を見た。

「そうか。…そうか。うん。はぁ、…嬉しいな。
デートしに行こう」

えっ!胸が跳ねる程ドキッとした。デート?………いつ?

「今?から、ですか?」

「ん?今から。コンビニデートだ。
後になったけど、スイーツ買いに行こう。
珈琲はまた入れ直せばいい。ずっと手も繋げるし。行こう」

…ふぅ。

「…はい」
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