【続】興味があるなら恋をしよう
あ、いけない。心の声が洩れてしまった。
匠だなんて…。
せめて、さん付けしないと、課長は年上なんだから。

「…紬、今の、もう一回、言って。呼んで?」

髪を梳かれた。あ、ほら、やっぱり、洩れてたんだ。

「…匠…さん」

「…違う。匠だ。匠でいいから」

「……匠」

「うん、…そうだ。今日から匠だ」

「あ、でも、凄く…」

「呼び辛い?」

「…はい。課長ですから」

「フ。呼んでたら慣れるよ。…課長ですからって、どういう理屈だ?
家では課長ではない。大分、俺が年上だからって事か?…ハハハ。…はぁ。いきなり嬉しかったよ…」

室内犬を愛でるみたいに頭を何度も撫でられた。

「…嬉しいのですか?」

「…ああ。紬が俺を自分のモノにしてくれた感じがしたよ。あー、これは俺だけの感情かなぁ。
一般男子は、どう思って呼び捨てにさせてるのかは知らないぞ?」

私のモノ。…課長が?

「私、そんなに強い立場ですか?」

「…ああ。男は女には敵わない。好きだと尚更敵わないよ。
惚れた弱みとでも言うのかな。もう、ここまで言ってしまったら、俺はずっと紬に敵わないってバレてしまったな。紬の為すがままだな。
俺は紬には敵わない…」

私、女王様みたいな感じなの?
そんなに支配してる立場なの?

「…仰せのままに、だ」

従うの?じゃあ、キスしてって、私が言ったら?課長するの?
…そんなのは嫌。
私は偉くなんかない。女王様なんかじゃない。

「匠さん…」

課長の口許を隠すように手で顔を包んでキスをした。
明るくて…してる顔をはっきり見られたくなかったから。
そんな…冷静さでするもんじゃない。キスは衝動でするモノよ。

『したくなったからした』…その言葉が浮かんだ。

私の頭の引き出しは、不意に許可なく開いて…困る。
唇を付けたまま考え事をしてるなんて…。
課長には、この空虚になってしまったモノが簡単に伝わってしまっているはず。
触れた部分が心を語っている…。
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