【続】興味があるなら恋をしよう
スーツ姿の人で混み合う電車に揺られ、部屋に向かった。

駅で下りて歩いた。
…ちょっと久し振り。
かなり久し振りか。

少し前まで見慣れていた景色は、もう何だか懐かしいような気がする。

あ…コンビニ…。


階段を上がって行くと、廊下を進み、突き当たりの一つ手前の部屋。
懐かしい…私の部屋。

バッグを探り、鍵…え?

え、え?…あ…ぁ……え゙ー。……無い?!……忘れた。
チャリンとバッグの中で音がしたのは、課長の部屋の鍵だった。
はぁぁ…も゙う、…これでは何しに来たんだか、解んない。何してるのよ、本当に…。
どうしよう…。

……。

……。

…坂本さん。

…。

まだ帰ってないのは知ってる。仕事が立て込んでいるのもよく解ってる。
忙しくしている最中だ。
…ごめんなさい!

ブーブー…。

【私の部屋の鍵は持ってますか?】

…藍原。どうした…。
電話って訳じゃないのに、慌ててフロアを出た。
折り返した。
RRRRR…RRRRR…。

「どうした?」

「あ、坂本さん…」

「どうした?」

「部屋に来たんです。来たのに、馬鹿だから…大事な鍵、持って来るのを忘れて…。
それで、どうしようって。
ごめんなさい。忙しいって解ってるのに、メールなんかして」

「今どこに居る?」

「…部屋の前。今は坂本さんの部屋の前に居ます…」

ぐっ。…藍原。

「まだ仕事終わらないんだ。やって置かなきゃいけない事がある。
なるべく早く終わらせるから。
藍原、俺の部屋に入ってろ」

「え?」

「前に俺、引っ越して直ぐ鍵を無くした事あっただろ?」

「あ、はい」

そんな事あったな。

「だから、またそんな事があっても大丈夫なように、鍵を隠して置いてあるんだ。
いいか、失敗するなよ。
まず場所を言うから、まだ何もするなよ」

「は、い」

「ドアポストに手を入れた直ぐ下のところに、ガムテで貼り付けてある。
手を差し込めば直ぐのところだ。手が当たるはずだ。
慌てて、中に落とすなよ。…やって見るか?」

どうしよう。
私がそそっかしい事は坂本さんもよく解っている。

「…坂本さん」

「ん?どうだ?取れたか?」

「これ、失敗して中に落としたら坂本さんも入れなくなるの?」

「いや、大丈夫だ。スペアだから。俺は今日、鍵はちゃんと持っている。
なに、落としたのか?」

「まだ、試してません」

「はあ…なんだ、まだか」

「はい。…あっ!」

「どうした!落としたのか?」
< 73 / 140 >

この作品をシェア

pagetop