【続】興味があるなら恋をしよう
「正確には、俺の手元には無い」

「え?」

「藍原の部屋の…ドアポストの中だ」

「え、でも、まだ、今日は29日…。
ベッドは?ベッドの処分は明日では無いのですか?」

「…ベッドはある」

「え?じゃあ、処分はしないって事ですか?
どうするんですか?」

「いや、ある意味処分した。藍原の部屋には無い」

「えー…」

じゃあ、私は部屋にも入れず。
入れていたとしてもベッドは無かったって事か…。

「ベッドは、うちにある…。
今朝、あの引き取り業者のお兄さんに頼んで特別に運んで貰った」

「えー!!…どうして、そんな事…」

「来て」

坂本さんに手を引かれた。
寝室に連れて行かれた。

あ…。
部屋が、ベッドでぎっちりになっていた。

「凄いだろ。どっちに転がっても落ちないくらい、ベッドで一杯だ」

どうして、こんな…。

「藍原…俺の事、こんな事をして…異常者だと思うか?」

首を振った。何度もブンブン振った。

「そんな風には思わない。でもどうしてこんな…何故ですか?」

「藍原の逃げ場所、みたいなもんかな…」

逃げ場所…。

「ちょっと違うな。何も無くなってしまった、心を埋める場所かな。
う〜ん、それもちょっと言い方が違うな」

坂本さん…。何となく、解る。私の何かを解ってくれている。
…そう。部屋に何もかも無くなってしまった、私の何となくの気持ち。
坂本さんと隣同士で暮らした部屋だから…。

これがあるだけで違うという気持ち。
この感覚は人には理解されない。
坂本さんだから解る。

「俺が預かっておいていいかな」

「はい、お願いします。…有り難うございます」

坂本さんの首に腕を回し、抱き着いた。嫌らしい心では無い。
純粋に感謝の気持ちからだ。

「俺、風呂に入って来るよ」

「はい」
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