【続】興味があるなら恋をしよう
「…ただいま」

暗い部屋に声を掛けてみた。
居ないのは初めから何となく解っていた。
坂本が血相を変えて帰ったから。

…その前に、携帯を見てフロアを慌てて出てたな…。

明かりを点けた。
ダイニングテーブルの上には用意されたご飯にラップが掛けられていた。
その横に、メモ。封筒。

カチ。ん?テーブルの下、足に何か当たった。

…鍵。これは…紬の部屋の鍵じゃないか…。
紬…。何してる。
肝心なモノ、忘れてるじゃないか…。これでは部屋に入れなくて……そうか、…。
……紬。


先にご飯にするか。
遅くなる俺を思って紬が作ってくれた物だ。ラップをめくって、温めもせずそのまま食べた。
…旨いな。
こんな時、旨いって事が、こんな寂しい気持ちになるんだな…。

風呂に入り、封の綴じられていない封筒とメモを手にソファーに座った。

『退職願』…か。

メモには、有給休暇を全部消化する事。
その日付で退職願を書いてある事。
確認して受理して欲しいと書いてあった。

封をしていないのはその為か。

会社を辞めるつもりで、これを。
…俺には何も言わないで。

紬、これはどういう意味での退職願だ?

何もかも終わりにするのか?


…寝室に入った。

紬の物。

クローゼットから無くなっているのは、ほんの僅かか…。
洋服が少し、…下着も。
2、3日程度の物を持ち出している程度って事か。

んん…。
帰っては来るんだな…。
< 77 / 140 >

この作品をシェア

pagetop