【続】興味があるなら恋をしよう
「紬…?どうだ〜?ごめん、遅くなったな。帰ろうか」

「あ、課長。お蔭様で沢山寝ました。もう大丈夫です。えっと、着替えて来ますね。後、荷物、取って来ます」

「着替えはいいよ。今日はそのまま事務服で帰ろう。車だし、帰るだけだから。荷物だけ取りに行こう。ゆっくり、ゆっくり降りろよ…」

課長…。課長も何か言われたんだ。

「はい」

脚を降ろして座ると、抱きしめるようにして立たせてくれた。それだけじゃない。
ぁ、課長…。
動悸が…激しくなります。頭にキスをされ、唇にも軽く触れて抱きしめられた。


「……紬…明日、午前中、病院へ行こう」

「え…、病院?…えっと…行くなら私一人で行けます。大丈夫です」

「何言ってる。一人でなんて心配だ。誰かに突き飛ばされたり、紬、そそっかしいから転んだらどうする。今日だって倒れたんだ…坂本が居て受け止めてくれたけど。
一人で行かすなんて、駄目だ、絶対に駄目だ」

…やっぱりだ。妊娠してるかもって言われたんだ。…そんな無責任な発言…。私達の何を知ってるつもり?…。

「でも、課長。課長が急に休んでは…」

「大丈夫だ。もう、明日の午前中は休むって出してある。紬の分も」

「…課長…」

「…もう社内じゃない。課長じゃない、匠だ」

握られていた手を唇に当てられてしまった。

「シートベルト、しっかりカッチリ絞め過ぎになってないか?何ならしなくてもいいぞ?」

「あ、課長。そんな事は…。それに、まだ、…遅れてるだけかも知れません。…解らない話です」

「あっ…そうか。そうだよな。そうだよ、先生の早とちりってパターンもあるのか…そうだよな」

「はい」

「俺、買っちゃったぞ、昼休憩に。…ほら」


赤信号で停まった。
後ろのシートに本屋さんの袋が見えた。
それを指して言う。
きっと私のお昼ご飯を調達したついでに買ったのね。
課長はお昼ご飯に、可愛い手まり寿司を買って来てくれた。

「少し読んだんだ。セックスは安定期になら、無理をしなければ大丈夫だって書いてあった」

セ?セックス?

「は?か、課長ー?!え…真っ先に読んだのは、そんなとこですか?」

いきなり何を言うかと思えば…。
…何が知りたくて買ったのやら。はぁ…疑いたくなるじゃないですか。折角買ったのですから、この際妊娠の事、ちゃんと勉強してくださいよね?

「何言ってる…大事だろ?いや、パラパラめくったところが、たまたま、な…開いたんだ。で、読み込んでしまった。それに…紬を赤ちゃんに取られっぱなしって、…可哀相じゃない?俺が」

課長ー…。

「課長がそんな事言うなんて…」

そもそも、だったら…、の話です。

「…紬の事が好きなんだ。だから…仕方ないだろ…」

「課長…」

そんなに気を落とされても…。別に怒ってるって訳じゃないのに。

「あ、何だか、胸も張って来るらしいぞ?どうなんだ?その内、俺の手からはみ出すくらいになるかもだな」

広げた手を握握(にぎにぎ)していた。

…。

「課長…」

「ん?」

「親目線で読んで、勉強してください」

「読んでるよ?だって、読むべきものに、そう書いてあるんだから、大事な事なんだろ?こう…ばーんて、張ってくるらしいよ?」

「か、課長、危ないです。ハンドル、ちゃんと握ってください」

「大丈夫だ、真っ直ぐだから」

…もう。…課長って、こんな人だったの?
本当にもう…呆れてしまうけど。可愛いというか…。はぁ。子供っぽくて面白い面もあるのね。…フフ…。フゥ……。
……。
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