ハロー、マイセクレタリー!
Ⅱ、意志か感情か
「あの……、手紙読んでくれた?」
放課後の体育館裏。まるで絵に描いたような呼び出しを受けたのは、下駄箱に手紙が入れられた日から三日後のことだった。
ほんのり赤くなった顔を俯かせて、モジモジ喋り始めた彼女は、まるでマニュアルにでも書かれているかのように、お決まりのひと言を口にした。
ああ、あの読まなくても、中身が丸わかりの手紙か。
心の中でそんな風に毒づきながらも、僕は申し訳なさそうに目尻を下げて微笑む。その微笑みは、目の前で俯いてこちらをまるで見ていない彼女にではなく、体育館の陰からこちらをこっそりと覗っている女子数名に向けたものだ。
まったく、女子というものはトイレだけじゃなくて告白にも友達を付き添わせるのか。
思わず出そうになった溜息を飲み込んで、そういえば結衣子はいつでも堂々と行動していることを思いだす。
決して、友達が居ないわけではない。ニコニコと愛想良く、首相の娘とは思えないくらい気さくに振る舞う結衣子は、クラスの中で浮くこともなく、休み時間も友達の輪の中にいる。
それでも、彼女の常に毅然として隙を見せない立ち居振る舞いは、女子特有のベタベタした付き合いに侵食されることはない。実際、トイレにも職員室にも、保健室ですら結衣子は一人で行くことが多い。
胸の内を打ち明けられるような友達が居ないせいでもあるが、何より生まれた時から“常に自分という人間をしっかりと持つ”ように躾けられてきたことが原因だろう。
別の女子からの告白の真っ最中にも、彼女のことを考えてしまっている自分に気が付いて、思わず笑いがこみ上げる。
もはや、重症だ。
完全に僕は恋に侵されている。