ハロー、マイセクレタリー!

「ごめんね。嬉しいけど、気持ちにはこたえられない」

ようやく口を開いて、これまたはじめから決まっていた答えを吐き出す。
そこでようやく、顔を上げた彼女と視線が合った。

「あ、あの…ほ、他に好きな人が…いるの?」

恐る恐る紡がれたひと言に、また僕は心の中で溜息をついた。どうして、僕の個人的なことを、よく知りもしない君に打ち明けなくてはならないのかと思うけれども、目の前の彼女は、今にも泣き出しそうな顔で、さも私にはそれを知る権利があるとばかりにこちらを見上げていた。

「そうだね。その通りだよ」
「もしかして…」
「それが誰なのかは、言えない。言うと相手に迷惑が掛かるから。そこまで言えば、何となく誰か分かるよね?」
「…うん」
「でも、お願いだから、みんなには内緒にして欲しい。君を信じて、特別に打ち明けたんだ。頼むよ」
「わかった。呼び出したりして、ごめんね。聞いてもらえただけで、うれしかった」

その後のやり取りも、僕にとってはもはや定型句だ。女の子は特別扱いに弱い。僕が告白される度に、その特別が増えていくことなど、彼女は知る由もないだろう。

もう一度、僕は彼女に向けて柔らかく微笑めば、彼女はスッキリとした顔で、じゃあねと去って行く。
それを見送るついでに、壁の陰に隠れた三人の方にも、軽く微笑みを振りまいた。


物憂げに微笑むだけで、平穏に事が済むなら安いものだ。一つでも対応を誤ると、女子というのは途端に攻撃的になる。そして、その標的になるのは僕じゃない。

結衣子の為とはいえ、無駄な笑顔を振りまくのは案外疲れる。
僕は顔だけはそのままに、少しうんざりとして空を仰いだ。
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