ハロー、マイセクレタリー!

母さんが言うには、父さんは若い頃とてもモテたらしいけど、今は母さん一筋だ。
父さんは「あれは、お母さんを口説く練習をしていただけ」と、冗談めかして言う。
今でもすごく仲の良い両親だけど、本当のところは僕には分からない。

引き出しにしまってある母子手帳をこっそりと見たことがある。
母親の名前の欄には、大木瞳。
父親の名前の欄は、大木透。
一見すると何も問題がないようだけど、父さんの名前だけはっきりと筆跡が違うことに気が付いた。
ここだけ、父さんが自分で書き込んだようだ。あとのページは全て母さんの筆跡なのに、ここだけ。
その不自然さがやけに引っ掛かっていた。

そして、決定打だったのは血液型だ。
家に郵送で届いた父さんの健康診断の結果を、ほんの出来心で開いてしまったのは一年前。
名前の欄の下に書かれた血液型を見て、思わず息が止まりそうになった。

A型の母親とO型の父親から、AB型の僕が生まれる可能性は、ほぼない。前に本で読んだことがあったから、すぐにピンときた。ごくまれにそういうケースもあるらしいけど、僕に限っては違う。

なぜなら、父さんは僕に自分はB型だと言っていたからだ。


もしも、僕が。
本当はお父さんの子どもじゃないのだとしたら。

お父さんが僕に嘘をつく理由は、大いにある。
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