ハロー、マイセクレタリー!
「やあ、また会ったね」
バス停で一人バスを待っていると、背後から声を掛けられた。このところ何度か聞き覚えのある声に、僕はあえて振り向かなかった。
「また、僕に何の用ですか?」
「またまた~、何の用か分かってるくせに」
男は分かりやすく猫なで声で近づいて、僕の隣に並んだ。
あいにくバス停には他に人はいない。
いつも、そうだ。この男は僕が一人の時を狙って近づいてくるのだ。
「分かりません。この前、お話したと思いますが、僕はあなたの質問にお答えするつもりもなければ、お話を伺うつもりもありません」
目を合わせないまま、きっぱりと拒絶すると、男はははっと乾いた笑いを漏らした。
「聡明な坊やだ。やっぱり、育ての親が優秀なんだな」
「何が言いたいんですか?」
「それでも、やっぱり本当の父親に会ってみたくはないの?」
男が呟いたひと言に、僕はまたかと溜息を漏らす。
「おじさんが、いつでも会わせてあげるよ?…………大物俳優、青田舜太郎(あおたしゅんたろう)の隠し子スクープと引き換えにね?」
このところ、僕につきまとっているこの男は、フリーライターという肩書きの怪しげな記者で、名前は確か斉藤と名乗った。
「本当にそっくりだね、若い頃のアオシュンに。整った目鼻立ちに、このスタイルだ。さぞかし学校でも目立つだろう?」
どうやら、僕から何かを聞き出して、有名週刊誌にネタを売り、一儲けしようと考えているらしい。
青田舜太郎。通称、アオシュン。
言わずと知れた有名俳優。妻も女優で、芸能界一のおしどり夫婦と言われている。
彫りの深い日本人離れした顔立ちは、若い頃から世の女性達を虜にしてきたらしい。
六十代の今でも、細身のスラリとした体型はそのままで、渋カッコイイと若者からお年寄りまで幅広い人気を誇っている。
そんな、超有名俳優と。
僕の顔は、瓜二つだ。