ハロー、マイセクレタリー!
僕は意を決して、口を開いた。
だが、それは青田の呼びかけに応えるためではない。
「その前に、斉藤さん。先に約束を守ってください。あの写真をデータごと今すぐ僕に渡してください。ここに来たら渡してもらえる約束でしたよね?」
自分の隣に立つ胡散臭い記者に手を差し出す。斉藤は呆れたように、溜息をついた。
「オイオイ、感動の初対面は?それが、本物の父親にようやく会えた子どもの反応かよ」
「約束を守っていただけないなら、僕は帰してもらえるまで、ひと言も喋りません」
強気な姿勢で詰め寄れば、相手は仕方ないという表情で僕に写真の束と一枚のディスクを差し出した。
「これで全部だ。データのコピーは取ってない」
「もし万が一、この写真が出回るようなことがあれば、僕だけでなく高柳家が黙っていません。あなたもこの仕事を続けたければ、バカなマネはしないほうが賢明です」
「わかったよ、相変わらず生意気なガキだな」
受け取った写真とデータを素早く鞄へとしまう。そして、斉藤に促されるまま、僕は歩みを進めて青田舜太郎の前に立った。
「先ほどは、質問にお答えせず、失礼しました。僕の名前は、大木奏と言います。」
「そうか…奏か…」
息子かもしれない子どもを目の前にして、還暦を迎えたばかりの青田が複雑な笑みを浮かべる。
おそらく青田も、突然斉藤から息子の存在をほのめかされたのだろう。青田と妻の間には確か子どもがいなかったはずだから、困惑するのも当然だ。
その明らかに戸惑っている瞳をまっすぐに見つめて、僕は戸惑うことなく言葉を紡いだ。
「名前を聞かれたので答えましたが。残念ながら、僕はあなたの息子ではありません」
「ここまで来て、何を!」と斉藤が背後で盛大に舌打ちするのが聞こえたが、気にせずに僕は話し続ける。
「僕には、ちゃんと父親がいます。僕の成長を何よりも楽しみにしていて、母のことを誰よりも大切にしている父親が。だから、僕があなたの息子だというのは、きっと斉藤さんの勘違いです」
「何を言ってるんだ!そんな訳……俺は、半年も掛けてこの件を追ってたんだ!!間違いない、青田さん、これはアンタの息子だ」
おそらく、本物の父親と対面を果たせば、僕が感動のあまり泣き出すとでも計算していたのだろう。予想に反して僕が笑顔で言い切った言葉を、斉藤が慌てて割って入って否定する。しかし、それは青田の目にも耳にも届いていないようだった。