ハロー、マイセクレタリー!
斉藤には目もくれず、僕の目をしばらく見つめ続けた後で、青田は静かにフッと笑った。その笑顔には、僅かに切なさと、安堵の表情が含まれている気がした。

「どうもおかしいと思ってたんだ。俺に息子なんて、いるはずねぇよな」
「ちょっと、青田さんまで!!」

再び声を荒げた斉藤を前に、青田はまるで舞台のワンシーンのように大げさな身振りで天を仰いだ。
その姿に、彼に真意が通じたことを感じ取って、僕は密かに安堵する。
例え、生物学上の親子であったとしても、互いに寄り添うことだけが、幸せではないことを、僕たちは言葉を交わさずに確認し合ったのだ。

「勘違いとはいえ、こんな有名人に会えて、ラッキーでした」
「こちらこそ、こんな頭のいい坊ちゃんの父親だと疑われただけでも光栄さ」

本当なら激しい感情に支配されそうになる場面でも、それを隠してにこやかに談笑することが出来る。僕にも、やはり役者であるこの男のDNAが受け継がれているのかもしれないと思った。

「あー、くそったれ。この半年の苦労が全部パーだ!!全くどうなってんだよ!!」

ずっと騒がしく悪態を吐き続けている斉藤を放っておいて、僕たちは再び数秒見つめ合う。
おそらく、この先の人生で、僕らが親子として会うことはないだろう。互いに望まぬのならば、それがベストの選択だ。
ただ、この人がいなければ、僕もこの世に生まれてくることはなかった。父にも、結衣子にも、出会うことはなかったと思えば、自然と感謝の気持ちだけが湧いてきた。

斉藤は取り乱した末に項垂れていた。
この隙に部屋を出ようと思った時、不意に部屋に誰かの来訪を告げるベルが鳴った。

「こんな時に、誰だよ?」

半ばやけくそで斉藤が立ち上がり、ドアを開ける。
その扉から顔を出した人物を見て、僕は今日初めて心の底から驚いた。

「息子を、迎えにきました」

爽やかそうな笑顔を纏いつつも、開いた扉を絶対に閉じさせない強引さを覗かせて、そこに立っていたのは。

僕の父さん───大木透だった。
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