ハロー、マイセクレタリー!
Ⅲ、大人か子どもか
部屋に乗り込んできた父さんは、ニコニコと微笑みながらも威圧感たっぷりに、すぐに斉藤と話を付けた。
「未成年を脅したあげくに密室に呼び寄せ、隠し撮りをするなど、我が国ではれっきとした犯罪行為ですが?」
言葉と共に父さんが差し出した名刺は、もちろん本物だ。
首相秘書官。その肩書きと、やたらと物騒な物言いに、斉藤は一瞬で青ざめた。
その様子から、斉藤は僕の父さんの職業までは調べが付いていなかったのだと知る。こうして見ると、どこまでも手抜かりの多い男だ。
「そ、そんな……犯罪だなんて、俺はただ……」
「今後一切、息子には関わらないと約束するなら、特別に今回だけは大目に見ましょう。あなたが情報を売ろうとしていた出版社とは、すでにこの件を取り上げないことで話が付いています」
「ひ、卑怯な手を使いやがって……」
「脅したのではありません。あくまで、忠告したまでです。万が一、あなたの記事を掲載した場合には、不法行為を助長した疑いを掛けられると。むしろ、編集長には礼を言われましたよ?」
父さんは、この手の策略に長けている。
征太郎君が、父さんを秘書にしたのは、人を丸め込むのと、追い詰めるのが上手いからだと常々言っているように、一度狙いを定めたら、容赦なく相手を払い落とす。
その手腕は業界でも密かに有名らしい。
もはや悪態をつくこともできずに、斉藤が力なく頷く。
それを一瞥してから、父さんは青田に穏やかな口調で話し掛けた。先ほどまでの鋭い眼光はすっかりと消えていた。
「初めまして、青田さん。お会いできて、光栄です」
「こちらこそ、初めまして。まさかこんなところで首相秘書官とお会いできるとは」
二人の“父”は、まるでどこかの首脳会談かのように穏やかな笑みを浮かべて握手を交わしていた。