ハロー、マイセクレタリー!
「瞳には、言うなよ」
父さんはホテルのエレベーターの階数表示を見上げながら静かに言った。
部屋を出てから初めて、父さんが口を開いた。僕は浮かんできた質問を口に出す。
「どっからどこまでを、秘密にしたらいいの?」
「あの記者に初めて会った時から、今さっき決着を付けるまで、全部だ」
「分かった。なら、僕も何も聞かなかったことにするよ」
父さんがそうしたほうがいいと思うならと、素直に頷く。
僕は今まで通り何も知らないふりをすればいいだけ。そう思っていたのに、父さんは僕のその返答には首を横に振った。
「いや、そうじゃない。瞳には話さないだけだ。あいつはあれでいて意外と一人で思い詰めるところがあるから。奏は……聞かなかったことになど出来ないだろう?」
もう、息子は言い繕ったところで、誤魔化される年齢じゃない。
その父さんの判断が、僕の存在をちゃんと認めてくれたようで、何よりも嬉しかった。
ホテルの地下駐車場に辿り着いて、父さんの車に乗り込む。シートベルトを締めたところで、再び父さんは話し始めた。
「まず、斉藤が話していた話は……全て本当のことだ」
「じゃあ、僕の父親はあの人なんだね」
「血が繋がってるという意味では、そうだ。だが……」
僅かに言い淀んだ後で、父さんは僕の瞳を真っ直ぐに見つめて言った。
「お前の父親は、この俺だ」