ハロー、マイセクレタリー!
しばらく僕が鼻水をすする音しかしなかった車内に、突然着信音が鳴り響く。
父さんのプライベート用の携帯だ。タイミング良く信号で止まった父さんが、着信相手を見てフッと小さく笑いを漏らした。
「どうやら、姫は待ちきれないようだ」
そのひと言とともに、素早く通話をハンズフリーに切り替えた。
「透くん?今、どこに居るのよ!奏は無事救出できたの?」
同時に勢いよく放たれた、聞き覚えのありすぎる美声に、僕はハッと目を見張る。
「……結依子お嬢様、お約束したではないですか。私が連絡するまではお待ちくださいと」
「だって、余りにも遅いんですもの!」
「少し話し合いが長引いたもので」
「それでっ、奏は?今、一緒に居るの?」
驚いた表情の僕とは違い、父さんは結依子の質問に淡々と答える。プライベートでは結依子相手に敬語を使わない父さんも、何故か今はすっかり秘書モードだ。
通話がハンズフリーであることに彼女は気が付いていないらしい。僕が、無事を伝えようと口を開きかけると、父さんが唇の前に人差し指を立てて、僕を黙らせる。
「奏は、無事です。安全を確保してから、すぐに帰るように言いましたから、ご安心ください」
「よかった~」
結依子の気の抜けたような声が車内に響き渡る。結依子は今日僕が誰にも無断で行動を起こしたことを知っているようだ。そんなこと、ひと言も打ち明けてはいないのに。一体どうなっているのだろうか。
僕がそんな疑問に首を傾げていると、父さんは再び電話の向こう側に語りかけた。