ハロー、マイセクレタリー!

「今度は、お嬢様の番ですよ?」
「分かってるわよ。守衛さんに止められて思ったより時間が掛かったの。身分証か名刺を出せって言われたから、小学生が持ってたら逆に怪しいわよ!ってツッコんでおいた。結局、顔写真で照合したみたいだけど」
「はは、流石ですね。さぞかし守衛も度肝を抜かれたことでしょう」
「茶化さないで。予定より到着が遅くなったけど、ちゃんと伝えてもらったわよ。あとは、ひたすら待ってればいいんでしょう?」
「はい。今のところスケジュールの変更は聞いていませんから。会食の予定もありませんし、今日は昼休憩を取る余裕くらいはあると思います。最高のエサを用意しましたから、必ずや食いつくはずです。とはいえ、自由になる時間は僅かしかありません。サミット前で何かと立て込んでいますからね」
「分かってるわよ。ちゃんと、言いたいことは整理してあるから大丈夫」

結依子と父さんの会話に、僕の頭の中はますます疑問で一杯になってゆく。

「頼もしいですね。では、健闘を祈ります」
「ありがとう、透君。また、後で」

結依子はどこにいて、何を待っているのか、考えているうちに二人は通話を終えてしまった。
謎めいた会話を思い起こして、僕は必死に糸口を探る。

エサに食いつく?
釣りの話…な訳はないな。
いや、待てよ…

結依子でも顔パスが通じないような堅い警備。
サミット前で忙しい人物。
それでも、結依子がわざわざ伝えたいこと。

……もしかして!?

僕の中で一つの結論が導き出されると同時に、父さんの横顔を覗き込む。
父さんは、最高に面白いものを見つけたかのように満面の笑みを浮かべていた。

「お前が自力で気が付かなければ、駅で降ろして家に帰すところだった」

そう言われて、僕は肩をすくめた。
それは、困る。
こんなところで、降ろされてたまるか。

僕は父さん譲りの洞察力に心から感謝した。
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