ハロー、マイセクレタリー!
もしも叶うなら、僕はこの先もずっと結依子の側にいたい。
それは、単に彼女が好きだからというだけじゃない。たとえ、この思いを一生口にすることが叶わなかったとしても構わない。
結依子の側で、ずっと彼女を支えたい。
子どものくせにと言われるかも知れないが、物心付いたときから自然とそう願うようになっていたのだから、すでにかなりの年季が入っている。
でも、それは彼女の未来を邪魔することにならないだろうか。今回のことでさらにその迷いは大きくなっていた。
「そう思うんなら、止めておけ。そのくらいの覚悟もないなら、足手まといだ」
思い詰めた表情をしているであろう僕に、父さんが投げかけたのは厳しいひと言だった。
この国の頂点まで登り詰めた政治家とともに、おそらくいくつもの修羅場をくぐり抜けて来たであろう敏腕秘書の判断は、いつだって冷静で的確だ。
子どもにだって容赦はない。
迷いを抱えたままでは、駄目なのだ。
僕だって、そのくらいは理解できる。
それでも、どんなに否定したところで、僕が青田舜太郎のDNAを受け継いでいることは、紛れもない事実だ。
スキャンダルの要素を抱えながら生きていることには違いないのだ。
「僕と一緒に居れば、またいつかスキャンダルに巻き込まれるかもしれない」
僕が口にした素直な言葉を父さんは、鼻で笑い飛ばす。
「思うとおりにしろよ。お前のやりたいように。細かいことは気にするな」
「本当に、いいの?」
「ああ。それともお前の御主人様はそんな小さなことを気にするような人間か?」
そう問われて、僕はすぐに首を横に振った。結依子は例え僕が本当はアンドロイドや宇宙人だったと言ったところで、僕に対する態度を変えないだろう。
「お前を複雑な事情の元に生んだのは親の責任だ。生まれてきた子どもが、責任を負う必要はない」
言い切った父さんは、その言葉の重さとは裏腹にとても上機嫌でアクセルを踏み込んだ。ジャンクション周辺の渋滞をようやく抜けたらしい。
「言っただろう?誰が何と言おうと、俺の息子だ」
その頼もしい横顔には「俺が全部責任取ってやる」と書いてあった。
「選べよ、自分の未来を」
僕はきっと一生忘れないだろう。
この時の父さんの誇らしげな顔を。
僕の背中を力強く押した、その希望に満ちたひと言を。