ハロー、マイセクレタリー!
ゆっくりと坂を上れば、右手に国会議事堂が見える。ちょうど正面玄関の真裏にあたるため、人通りはまばらだ。
その特徴的な建物のフォルムを見上げて、僕はようやく話を切り出した。
「結依子は将来政治家になるの?」
「ええ、そうね」
今更ながらの質問を投げかければ、結依子はさも当然という顔で答えた。
「じゃあ、僕は結依子の秘書にでもなろうかな」
「仕方がなく?」
「そうだね。僕がいないと結依子は愚痴の一つもこぼせないし、ヘアスタイルも決まらないだろう?」
「大きなお世話よ!」
ムキになって、ただおろしただけの髪を手ぐしで整える結依子を見て、僕の心はじんわりと温かくなった。
それでも、あえて挑発的な言葉を口にした。いつまでも無自覚な結依子に振り回されるのも癪だ。
「はは、たまには無造作におろしてるのもいいね。大人っぽく見える。その顔で上目遣いで見つめられたら、男はすぐに勘違いするよ」
「なっ…!ちょっとやめてよ。からかわないで」
「からかってないよ。本気で言ってる」
頬を赤らめて僕を見上げる結依子は、いつにも増して僕の心臓をドキドキさせる。
今日だけが特別じゃない。もうどんな結依子だって、僕はドキドキできる自信がある。
その胸の高鳴りに気が付いたその日から。
彼女の隣を他の誰かに譲るなんて、僕には出来っこなかったのだ。
例えば、何十年後。
この場所に立っている君の隣に。
立っているのは僕でありますように。
その時の僕は君にとって。
信頼できる存在でありますように。
今の父さんのように。
今、ここで願い誓うよ。