ハロー、マイセクレタリー!
「また、朝からラブラブだねー」
不意に扉の方から声がしたため、振り返れば、扉の隙間からこちらを覗う頭が二つ。
「だいたいさぁ、普通実家で同棲するカップルなんていると思う?」
「普通かどうかは別にいいけど、僕たちの存在も忘れないで欲しいよね」
そう言い合いながら中へと入ってきたのは、結依子の妹の実依子と弟の周太郎(しゅうたろう)だ。
結依子より七つ下の実依子は今年二十歳。都内の大学の英文科に通う女子大生だ。
社交的な性格で友人も多く、一貫して子どもの頃から政治にはまるで興味が無い。そんな姉とはまるで似ているところがない彼女は、キャビンアテンダントかニュースキャスターを目指しているらしい。
対して、高柳家の長男として誕生した周太郎は今年15歳。父親に生き写しと言われる風貌だが、中身はまるで似ておらず、これまた政治にはとんと興味が無い。
しかし、興味のあることはとことん追求するタイプのようで、今は大好きなテニスに打ち込んでいる。そのうちプロにでもなる気じゃないかと思うほど練習しているが、本人に聞けばそんなつもりは毛頭無いらしく、将来の夢は医者だそうだ(テニスで怪我をしたときの主治医に影響されたらしい)。
「同棲じゃないわよ。同居よ、同居」
妹と弟の冷ややかな視線を気にしてか、結依子がいちいち訂正を入れる。しかし、小さい頃から優等生の姉をどこか生温かく見守る二人は、それを軽く聞き流した。
「ハイハイ、同居だったわね。世間の目を欺くための」
「要するに、僕らはカモフラージュにされてるわけだ」
政界期待の星として注目を集める彼女は、スキャンダルにも注意を払わねばならない。特にマスコミが狙っているのは結依子の熱愛スクープだ。
たとえ事実無根であっても、報道の仕方によっては、結依子の真面目でクリーンなイメージに傷が付きかねない。
そのために、結依子の秘書も兼ねるにあたって、行動を共にすることも多い僕は、高柳家に住み込むこととなった。先月から客間の一室を借りて寝泊まりをしている。