ハロー、マイセクレタリー!
「僕たちは、純粋に同居してるだけだよ。ほら、君たちも知ってのとおり、寝室だって別々だしね」
二人に向けて説明すれば、実依子が呆れたように溜息をついて言い返してくる。僕とはきょうだいのように育ったため、二人とも遠慮がない。
「じゃあ、おねえちゃんがよく夜中に奏君の部屋から出てくるのを見かけるけど?あれ、何してるの?」
「ただの打ち合わせだよ」
とりあえずは当たり前の解答をして、にっこり微笑む。それで納得するような二人ではないことは百も承知だ。
案の定、僕の返答はまるで聞いてなかったかのように、話を続けてくる。
「ふーん。まあ、お姉ちゃんの部屋じゃなくて、毎回奏君の部屋なのは助かるけど。流石に姉の変な声は聞きたくないから。隣の部屋じゃ、丸聞こえだしね」
「そうそう、念のため言っとくけど、鍵もちゃんとかけたほうがいいわよ」
「ご心配なく。毎回きちんとかけてるから。声は……僕に言われても困るな。結依子に気を付けてもらわないと」
妹弟たちの恥ずかしすぎる忠告に、結依子は顔を赤らめてぶんぶんと首を横に振っている。その初心な反応が可愛くて、僕は思わず抱きしめたくなるのを我慢した。
「ちょっと、やだ!!変な想像しないで。全くの事実無根……奏も誤解を招くようなこと何で言うのよ!!」
猛然と抗議し始めた結依子に、僕はしれっと言い返した。
「僕はただ、内密な話を聞かれたらまずいから鍵を掛けてるだけだよ?それに、結依子は議論が白熱してくると、すぐ声が大きくなるからね。もう少し気を付けてほしいな。で、結依子はいったい何を想像したの?」
にっこりと微笑んで首を傾げれば、結依子は顔をさらに赤く染めて黙り込んだ。
結依子の政治家としての手腕はなかなかのものだが、この手の方面は一向に成長していない。
15年前、僕が思いを告げたあの時と同じ、赤い顔で僕を見つめている。