ハロー、マイセクレタリー!
電車に乗り、県庁近くの駅で降りる。
駅からは徒歩だ。
どこまで付いて行こうか迷いつつ、彼女と肩を並べて歩いた。
結依子は少しは緊張しているのか、彼女らしくないこわばった表情をしていた。
「奏は、どこまでついてくるの?」
彼女が前を向いたまま、僕に尋ねた。
当然の質問だろう。
「ついでだから、県庁まで送りますよ」
秘書口調で答えれば、結依子は不服そうに言葉を返した。
「子どもじゃないんだから、ちゃんと一人で行けるわよ」
その言葉にまた僕はまた彼女をからかいたくて仕方なくなる。
「子どもじゃないなら、もうそろそろ本気で迫っても大丈夫かな?」
「また、こんな大事な時に、冗談は言わないで」
「じゃあ、本気なら、構わないわけだ」
彼女をからかいながらも、いつも口にする言葉は紛れもない僕の本心だ。
いつだって、彼女のことが愛おしくて仕方ないし、無理矢理にでも自分のものにしたくてたまらない。
「さっきの答え、もう一度言い直してもいい?」
一呼吸置いてから、僕は切り出した。
もう一度僕の決意を伝えるべき時は、今じゃないかと思いつく。
彼女が政治家として第一歩を踏み出す今日こそ、もっとも相応しいように思えた。
「結依子になら、僕はどこまでもついて行くよ」
僕のひと言に、結依子が足を止めた。
戸惑うように見上げた視線を、しっかりと受け止める。
「結依子の願いなら、なんでも叶えてあげられるように努力するし、僕以上に君のことを理解できる秘書はいないと思う」
ここぞとばかりにアピールした。
この15年間で、じわりじわりと固めた足場はすでに揺るぎないものになっているはずだ。