君の花火
嘘つき
■■嘘つき■■
「あたしん家、ここ」
「でか」
そうかな。普通だと思うんだけどな…。
「じゃあ、俺も帰る」
「うん。じゃあ後でね」
「学校…だよね?」
「あ、連絡するよ」
「わかった」
またねと言って、ハルが坂を下っていった。
後ろ姿を見て思った。
やっぱ、ハルが笑うと嬉しいな。
「姉ちゃん」
「あ、怜」
振り返ると弟の怜が自転車を引いて立っていた。
怜は中学3年の弟。
バレー部のキャプテンで賢くて優しい自慢の弟。
黒髪で華奢で。姉が言うのもなんだが、カッコイイ。
そこらのモデルと比べたらダメだね。それくらいカッコイイ。
「今日病院でしょ。なにしてんの」
「今帰ってきたとこだよ」
だけど怜はちょこっとだけおせっかい。
「ふーん…俺も。あ、父さん待ってるよ」
「うわ。それ早く教えてよ」
急いで家の中に入る。
「あ、姉ちゃん」
今度はなに。
「なに?」
「大丈夫だからね」
あたしは、自分でも馬鹿だなって思う。
佑都にも、怜にもこんな顔をさせてる。
本人達は、自分がこんな顔してるなんて思わないだろうけど。
「うん。分かってるよ。そんなんであたしは潰れないから」
満面のスマイルとダブルピースをすると、怜が笑った。
「気をつけなよ」
「はーい。ありがとう」
急いで部屋に戻り、荷物をひよこの付いた黄色のリックに入れる。
それを制服の上からしょうと下からお父さんに呼ばれた。
「今行く!」
病院まで少し車を出すため、お父さんに運転してもらうのだ。
歩いて行けない距離じゃないんだけどね。
中学の頃、歩いて行くからいいよと言ったら家族全員に反対されたので却下。
「お待たせ!」
「向夏、走ったのか!大丈夫なのか?!」
心配性のお父さん。急いで来るあたしに慌てふためいた。
それを無視して助手席に乗り込んだ。
「うっとうしい!大丈夫だから!早く車出さないと間に合わないよ?」
「おお!行くぞ」
大工のお父さん。
ここらの家は大体がお父さんが建てたもの。
怜はお父さんみたいになりたいらしくて、正確には大工になりたいらしくて。
将来は怜が建てる家もできるのかな。
将来、か…。
「お父さん、今日から佑都ん家行ってくるから」
「おお、なんだ今日からか」
「そう」
「ま、検査が大丈夫だったらな」
「何言ってんの。大丈夫だって~」
お父さんも怜も佑都も、みんな心配しすぎなんだよ。
大丈夫だよ。
今日は、心電図だけだから早く終わる。
はず…、だったんだけどな。