プロポーズはサプライズで
「頑張ってたぞ、八重。俺はちゃんと見てたからな」
親友のために必死になる姿は、本当に綺麗だった。
俺の好きな、ひたむきな顔だった。
なあその顔、もっと俺にも向けてくれないか?
心の中で思って、苦笑する。
一応、これまでの人生、それなりにモテまくってきたんだぞ?
相手から振られたのは、前カノの梨本だけだ。
なのに誰とも付き合ったことのないお前が、どうしてこんなに俺を振り回すんだよ。
「……ったく、平和そうな顔して寝やがって」
その唇を奪おうと体を傾けたとき、彼女がゆっくりと目を開けた。
一瞬ぎょっとはしたものの、そこはそこ、ポーカーフェイスで八重からの問いに答えていく。
でもやっぱり内心は動揺していたのかもしれない。
先ほどまでの思考につられるように、うっかり自分の気持ちを吐露してしまう。
途中で、ふと八重の表情が変わったことに気が付いた。
アニメキャラに生き生きしているのとも、仕事中みたいに無気力な感じとも違う。
頬を赤くして、目を潤ませ、俺の言葉を咀嚼するみたいに、いちいち頷いては唾を飲み込んでいく。
これに似た顔は、さんざん押しまくっていたときによく見たけれど。
思えばこの顔って、俺しか見たことがないのか?
――なんだ。
途端に、胸がすっとする。
満たされたのは優越感か、独占欲か。
分からないけれど、俺の今までのモヤモヤを吹き飛ばすくらいの力があった。
今日は逃がさない。
三笠くんと明日美ちゃんと別れ、ふたりきりで帰る道すがら、そんな風に決意する。
逃がさない。
俺だけが見れる顔で俺だけが聞ける声を、いつまでも聞いていたい。
押し問答の結果、向かった俺の部屋で、オタオタする彼女を壁際に押し付けて、俺は本日二度目の彼女の涙を見る。
悪いな。
今日は、少しくらい泣かれても止められる気がしない。
【Fin.】