プロポーズはサプライズで

「頑張ってたぞ、八重。俺はちゃんと見てたからな」


親友のために必死になる姿は、本当に綺麗だった。
俺の好きな、ひたむきな顔だった。

なあその顔、もっと俺にも向けてくれないか?


心の中で思って、苦笑する。

一応、これまでの人生、それなりにモテまくってきたんだぞ?
相手から振られたのは、前カノの梨本だけだ。


なのに誰とも付き合ったことのないお前が、どうしてこんなに俺を振り回すんだよ。


「……ったく、平和そうな顔して寝やがって」


その唇を奪おうと体を傾けたとき、彼女がゆっくりと目を開けた。

一瞬ぎょっとはしたものの、そこはそこ、ポーカーフェイスで八重からの問いに答えていく。


でもやっぱり内心は動揺していたのかもしれない。
先ほどまでの思考につられるように、うっかり自分の気持ちを吐露してしまう。

途中で、ふと八重の表情が変わったことに気が付いた。
アニメキャラに生き生きしているのとも、仕事中みたいに無気力な感じとも違う。
頬を赤くして、目を潤ませ、俺の言葉を咀嚼するみたいに、いちいち頷いては唾を飲み込んでいく。

これに似た顔は、さんざん押しまくっていたときによく見たけれど。
思えばこの顔って、俺しか見たことがないのか?

――なんだ。

途端に、胸がすっとする。
満たされたのは優越感か、独占欲か。
分からないけれど、俺の今までのモヤモヤを吹き飛ばすくらいの力があった。


今日は逃がさない。

三笠くんと明日美ちゃんと別れ、ふたりきりで帰る道すがら、そんな風に決意する。

逃がさない。
俺だけが見れる顔で俺だけが聞ける声を、いつまでも聞いていたい。

押し問答の結果、向かった俺の部屋で、オタオタする彼女を壁際に押し付けて、俺は本日二度目の彼女の涙を見る。

悪いな。
今日は、少しくらい泣かれても止められる気がしない。




【Fin.】

< 57 / 57 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:52

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

処刑回避したい生き残り聖女、侍女としてひっそり生きるはずが最恐王の溺愛が始まりました
  • 書籍化作品
[原題]あなたがお探しの巫女姫、実は私です。

総文字数/132,289

ファンタジー161ページ

表紙を見る
表紙を見る
働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
  • 書籍化作品
[原題]慈善事業はもうたくさん!~転生聖女は、神殿から逃げ出したい~

総文字数/114,967

ファンタジー122ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop