天神学園の問題児再来
着替えを終え、3段重ねの弁当を持って。

「ノエルっちはこれから道場の準備?」

玄関でスニーカーを履きながら、龍乃が言う。

「うん、午前中はお年寄りが道場に来るからね」

ノエルの父、橘 拓斗(たちばな たくと)も、下は小学生や幼稚園児から、筋骨逞しい若者達、上は年配のお年寄りに至るまで、幅広い年齢層の門下生の師範として、道場を切り盛りしていた。

いまやノエルが師範を務める龍娘流中国拳法は、最早道場破りさえ恐れ戦いて近付けないほどの大規模流派へと発展した。

開祖の龍娘など、今では呑気に中華料理店の店主をしているが、世界中の警察や軍隊が制式格闘術として教えを請いに来るほどの武道家、『マスター・ロンニャン』として知られている。

そんな流派の一道場を背負っているノエルは、誰よりも頼りになる、そして龍乃にとっては優しい自慢の旦那様だ。

「そ、それじゃあ…」

玄関のドアを開ける前に、ノエルの頬に、ちゅっ、とかやりながら。

「い、行ってきます、にゃはっ…」

龍乃は小走りに出て行く。

ぼしゅうっ、と。

頭の天辺から湯気が止まらないノエル。

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