天神学園の問題児再来
新居のドアを開け、たたたっ、と走り出ていると。

「龍乃」

無愛想な声が、龍乃の耳に届いた。

「今から登校…いや出勤か。教師の出勤時間ではないな」

「あ、刹那っち、おはよー」

龍乃は、元結で長い黒髪を括った1人の青年に挨拶する。

琴月流剣術次期宗主、音無 刹那。

この男と琴月 琥珀(ことづき こはく)が住む琴月別邸が、極々近所である事を知ったのは、つい最近の事だ。

彼らも『龍乃一味』の1人として、刹那は風紀委員、琥珀は会計を務めていた。

「琥珀っちは元気?アタイが出勤する時はあんまり見かけないけど」

「アイツは朝が弱いからな…まだ夢の中かもしれん」

帯刀した愛刀の日蝕(にっしょく)月蝕(げっしょく)に手をかけ、やれやれと溜息をつく刹那。

左眉から左頬にかけては、刀傷。

彼の端正な顔立ちが些か損なわれている感もあるが、嘗て刹那は、この傷が気に入っていると言っていた事を龍乃は思い出した。

『あの時』の記念になると。

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