天神学園の問題児再来
父に稽古を付けてもらうべく、まずは近衛騎士のヴィルヘルム=ガルシア、そして侍官のエーリッヒ=カイル=ランドークとの稽古に臨む事数週間。

結果は出ていないのか。

無言でついて来る妹のシャンリーもそのままに、シオンはひたすら自問する。

彼の連撃は、確かに黒爪を押していた。

真太郎との同時攻撃だったとはいえ、黒爪をしっかりと瞠目させていた。

結論から言えば、シオンがヴラドと決闘した時よりも、遥かに腕を上げている。

しかし結果を急ぎ過ぎているのか、向上心が高すぎるが故なのか。

満足のいかない実力に、シオンは苦悩する。

黒爪を倒せなかった。

自分1人で奴を撤退させる事が出来なかった。

その事が、自分の中で消化できない。

モヤモヤと、蟠りになって心の中に残る。

…黒爪は、父とも戦った事があるような口ぶりだった。

そして父とも、決着が付けられなかったような口ぶりだった。

さぞや落胆した事だろう。

因縁の相手の息子が、この程度の実力で…。

なのに。

「ヴラド先生はああ言ってたけどさ!」

開口一番、明るい声を上げたのはシャンリーだった。

何という事か。

この能天気な妹は、まるでショックを受けていない。

「流石父上の血を受け継いだ兄上だよね!皆を守り通したよ!」

「…は?」

振り向くシオン。

守り通した?

どこが?

俺は黒爪を倒せていないじゃな…。

「誰も犠牲者を出さなければ勝ち!勇者は『倒す為に戦う』んじゃなくて『守る為に戦う』んでしょ?じゃあ兄上の勝ちだよ!」

「……!」

もしかしたらシャンリーは、唯一今回の戦いの本質を見抜いていたのかもしれない。

忘れてはいないだろうか。

シャンリーもまた、物事の本質を的確に見抜く雛菊の気質を受け継いだ娘なのだ。

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