恋する5秒前~無愛想なキミと~
「うん」
「アイツは?」
「トイレに行ってる」
淡々と交わす会話。
私はくるりと向きを変えて、水槽に手を添えると優雅に泳ぐ色とりどりの熱帯魚を眺めた。
…………え?
青く光るネオンテトラに心を奪われていると、不意に自分の右手の上に重なる大きな手。
桜井君が私の真後ろに立っているのが分かる。
ゴツゴツとした大きな手で私の手をそっと包んだ。
「アイツ、優しくしてくれるんだろ?」
私の耳元に小さな声で話し掛ける。
意外な展開に戸惑っていて、私は首肯くだけで精一杯。
「アイツを選んで良かったな、水野」
いつもより穏やかな口調で話す低い声が背中越しに伝わってくる。
こんな風に言われるのは初めてだよ。
心臓が桜井君に聞こえるんじゃないかと心配になるくらい、うるさく鳴り響く。
いったい、どうしたの?桜井君。
これも彼女に影響されてるから?
それと、この手はなに?
まるで壊れものを扱うかのように、そっと包み込む彼の手はじんわりと温かい。
せっかく決心したのに、こんなことされたら気持ちが揺らいじゃうよ。
返事をしたくても、言葉が出てこない。
「桜井君、あの……手を……」
やっとの思いで口を開くと