恋する5秒前~無愛想なキミと~

「遅くなって、ごめん!トイレなかなか見つからなくてさ」


疲れた顔をしながら瀬戸君が戻ってきてくれた。


「大丈夫だよ、この水槽ずっと観てても飽きなかったよ」


ついさっきまで桜井君が隣にいて手を繋いでいたなんて……そんなこと絶対に言えないよ。


「おぉ、この水槽やけにキレイだな」


「うん、熱帯地方の魚ってホントに色がキレイだよね」


赤や青、白と黒の島縞模様、小さなエビや色鮮やかな珊瑚やいそぎんちゃく。


私はさっきの出来事を頭の中から消したくて、この水槽をしばらくの間眺めていたんだ。


「次はクラゲがいる水槽か」


「どんなクラゲがいるのかな?」


自然と手を繋いで移動する。


ここの水族館は広いからまだたくさんの魚達が展示されている。


館内をゆっくりと回りながら


「お昼ご飯食べたらショーを見に行こうか?」


「いいね、私もショーを見たいと思ってたんだ」


「昼飯、何が食べたい?」


もしも、ショーの会場で桜井君と会ったらどうしよう?


普通に挨拶できるかな?


パンフレットを見ながら楽しそうに話す瀬戸君を、私は複雑な思いで見つめていたんだ。

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