恋する5秒前~無愛想なキミと~
「アイツを選んで良かったな、水野」
あの声は紛れもなく桜井君の声だった。低音で、ぶっきらぼうな言い方。
今まで何度も聞いているから声を聞いただけで桜井君だって分かる。
こんなに広い世の中なのに、偶然にも同じ日に同じ水族館へ出掛けて、しかも会うなんて、神さまが私に試練を与えてるとしか思えないよ。
神さまの意地悪。
せっかく自分で決めたことなのに、決心が鈍ったらどうしてくれるの?
「確か、桜井とあの子は中学ん時から付き合ってたと思うけど」
瀬戸君は思い出したかのように話を続けた。
「そうなの?」
「理想のカップルとか言われて騒がれてたけどね」
「理想のカップルか」
意外な情報を瀬戸君の口から聞くとは思わなかったけど、やっぱりそうか。
あの二人は特別な関係を築いてたんだ。
視線を前方に向けると仲睦まじく歩く桜井君と彼女の姿が目に入る。
彼女が桜井君の腕に自分の腕を絡ませて歩いたり、満面の笑みで彼に話し掛ける姿は、どこから見ても恋人同士にしか見えない。