恋する5秒前~無愛想なキミと~
電車の絵本の他に、未来の膝の上には数冊の絵本が置かれていた。
「私が絵本を持っていくから自習室で読もうか?」
ここに未来を一人では置いていけない。
「うん、香奈ちゃんと翔のところへ行く」
未来から絵本を受けとると、2階の自習室へと移動したんだ。
2階の奥にある自習室。
そっとドアを開けて入ると、静まり返った部屋には既に席が埋まっていた。
受験生らしき人があちらこちらに点在して、ノートと参考書をテーブルの上に広げてペンを走らせていた。
そうだ、来年は私達も大学受験をするんだ。
ということは、そろそろ自分の進路を決めなきゃいけないのか。
一気に現実に引き戻される。
「環、こっち!」
後ろから小さな声で私を呼ぶ香奈。
振り向くと椅子が2つ用意してあった。
「席を取っててくれたんだ。ありがとう」
先に未来を座らせてから私も椅子に腰掛けた。
「環、英語の宿題。ちょっと見せて」
座ると早々に催促をされてしまった。
「はい、どうぞ」
香奈に英語の宿題のプリントを手渡した。
「良かった。ちょうど分からないところがあってさ……」
ひそひそと声を潜めて話す香奈は、私が答えを書いたプリントを見つめ、自分のプリントへ書き写している。
「そっか、この答えはこう書くのかぁ」
プリントに書き写しながら納得した表情の香奈。
「でも、合ってるかどうか、私にも分からないよ。それでも、いいの?」
「いいの、いいの。私、そんなの気にしないから」
そう言いながら香奈は顔を上げてニコッと笑った。