恋する5秒前~無愛想なキミと~


「あら、花火大会。良いじゃない。香奈ちゃん達と楽しんできなさい。浴衣はお母さんが準備して里美に着付けてもらうから」


「ほんと?」


「いつも環には家のことを押しつけてばかりだもの、友達と一緒に出掛けたいわよね。ねぇ、環。瀬戸君とは一緒に花火大会へ行かないの?」


あっ!


お母さんに言われて、私は返事に困ってしまった。


そうだ、すっかり忘れてたよ。


水族館デートをしたとき以来、瀬戸君とはずっと会っていないんだった。


瀬戸君は陸上部の練習ばかりで、なかなか会えないから毎晩LINEで連絡を取り合っているけれど、全然会ってないな。


瀬戸君は私の彼氏なのに、なにひとつカレカノらしい付き合いをしていないよ。


これで付き合ってると言えるのかな?


お母さんに指摘されて瀬戸君のことを思い出すなんて、彼女失格だよね。


こんな付き合い方じゃ、彼のファンの子達から非難されちゃうよ。


「た、たぶん部活の練習が忙しいから行かれないんじゃないかな、アハハ」


「あら、そうなの?瀬戸君は毎日練習ばかりして大変なのねぇ」


「うん、そうみたい」


これ以上墓穴を掘りたくない私は、苦し紛れの言い訳をしながらその場を離れることにした。


私が瀬戸君と付き合ってる自覚がないことに、お母さんはもしかして気づいているのかな?

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