恋する5秒前~無愛想なキミと~
目の前にいたのは
「桜井君?」
薄暗くて顔がよく分からないけど、この声は桜井君だ。
「水野、どうしたんだよ?立てるか?」
桜井君は手を差し出すと私の手を掴み、座り込んでいる私を立ち上がらせてくれた。
「あ、ありがとう」
桜井君の後ろからひょこっと顔を出したのは
「ねぇ、隼人。急に立ち止まったりして何があったの?」
「ん、あぁ、樹里」
「隼人、そこにいる子は誰なの?」
私の顔を見て怪訝そうな表情をする一人の女の子。
水族館で見かけたあの子だよ。確か、梁瀬樹里さんって子だよね?
「あぁ、コイツは俺と同じクラスの水野」
「水野環です」
桜井君に紹介されて梁瀬さんにペコリと頭を下げて挨拶をした。
って、呑気に挨拶をしている場合じゃないよ。未来と翔を捜している途中だったのに!
「桜井君、いきなりぶつかっちゃってごめんね。私、ちょっと急ぐからこれで……」
樹里さんと桜井君のデートを邪魔するわけにはいかないよ。
それに、早くこの場を離れてあの子達を捜しに行かないと!
駅に向かって歩こうとしたその時ーー。
「水野、ちょっと待てよ」
「えっ、なに?」
桜井君に右腕をグッと掴まれて呼び止められてしまったんだ。