恋する5秒前~無愛想なキミと~
戻ってきたのは桜井君一人。
「悪い、水野。アイツ等見つかんなかった」
額に汗を滲ませて私に謝る桜井君。
「そう。やっぱり、いないのか」
屋台の通りも人で溢れているからなぁ。
背の小さな子供だもの、大人の陰に隠れて見つけにくくなっているのかな?
今の世の中は色んな人がいるから、もしかしたら……。
「私、自分のことばかり考えてて、あの子達をちゃんと見てないからこんなことになっちゃったんだよ。結局、皆に迷惑を掛けちゃうし、皆いい迷惑だと思っているよね?」
やっぱり来るんじゃなかった。小さな子供がいると思わぬアクシデントが起きる。
皆に迷惑を掛けるくらいなら、最初から参加しなければよかったんだよ。
「おい、水野。落ち着けよ」
急に不満をぶちまける私をなだめようとする桜井君。それに甘える私の口は止まらない。
「あの子達になにかあったら私、どうすればいいのっ?里美ちゃんになんて言ったらいいの?」
ポロリと頬を伝う涙。
周りの人達は何事かと私達の様子を伺っている。私達がケンカしているように見えるのかも。
溢れ出る涙を拭っていると、フワリと抱き締められている感触を感じたんだ。
「さ、桜井君?」
「水野、落ち着けよ。お前は悪くないし、皆も迷惑だなんて思ってねぇから。アイツ等必ず見つかるから、な?」
耳元で囁くように私に話す桜井君。
「うん」
低く響く桜井君の声。
彼の声を聞いただけで、不思議と今まで張り詰めていた気持ちが緩んでいく。
公衆の面前で抱き合う私達。
皆に見られていると思ったら、段々と恥ずかしくなってきちゃったよ。どのタイミングで離れればいいの?
そんな気持ちの余裕まで出てきたところに、スマホから着信を知らせるバイブと音楽が鳴り出した。