世界はまだ君を知らない
「……わ、笑いましたね」
「悪い。あまりにも面白かった」
「面白い!?」
ひ、ひどい!
いつも冷静な彼がつい笑うほど、情けない姿をしていたのだろう。恥ずかしさに顔を赤くし、一歩を踏み出す。
すると目の前には、黒いコートを着た彼の右腕がそっと差し出された。
「転んだら危ないからな。腕、掴まれ」
「えっ……」
いいの、かな。
腕に掴まるなんて、手をつなぐよりも恥ずかしい。私なんかが腕に掴まったりして、周りから変に見られないかな。
けど、彼の優しさにまた甘えずにはいられないから。
「……ありがとうございます」
小さく呟くと、その腕にぎゅっと掴まり歩き出す。
触れることで知る、彼の腕のたくましさ。
寄せた体が触れると、ドキドキ、ドキドキとまたこの心臓をうるさくさせた。