世界はまだ君を知らない
新宿から30分ほどかけて歩き、やってきたのは幡ヶ谷の駅近くにある4階建てのマンション。
まだ新築らしい綺麗なその建物の4階、1番手前にある『401』と書かれたドアの前で仁科さんは足を止めると、慣れた手つきで鍵を開け自宅へあがった。
「入れ」
「お、おじゃまします……」
少し緊張しながら、玄関へ一歩踏み込む。
短い廊下から右手のドアへ入れば、少し広めのリビングが広がっていた。
横長のソファに低めの白いテーブルと、その上にはノートパソコン。
目の前にはテレビやDVDデッキが置かれ……と、物はそれなりに置いてあるものの余計な物はなく、綺麗にしてあるその部屋から几帳面な仁科さんらしさを感じた。
「適当に荷物置いていいから」
「は、はい」
適当に、と言われてもどうしていいかがわからず、とりあえず部屋の片隅に自分のトートバッグとコートを脱いでまとめておく。
その間に仁科さんは、私がいるリビングから出たかと思えば、浴室へ向かったり他の部屋へ入ったりと仕事中同様に颯爽と動く。
そして廊下を挟んだ向かいにある、おそらく寝室であろう部屋からバスタオルと服を持ってきて私に手渡した。