世界はまだ君を知らない
あたたかな湯船にしっかりとつかり、体を芯から温めた私は、浴室からリビングへと戻った。
「お風呂、ありがとうございました」
「あぁ、出たか」
出迎えたのは、暖房の効いた少し高めの室温と、スーツのジャケットを脱ぎネクタイもほどいた仁科さん。
自宅ならではのその気を緩めた格好が、ちょっと新鮮だ。
「服、やっぱり少しでかかったか。悪いな、我慢してくれ」
「い、いえ!助かります」
仁科さんの部屋着らしい、紺とグレーのラグラントレーナーと、黒いズボンを履いた私を見て仁科さんは言う。
……けど、正直普通の女の子が着るよりは大きくないんだよね……。
体の幅の分がダボっとしてしまっているだけで、袖や裾の丈は少ししかあまっていない。
自分の背の高さや腕の長さを実感するなぁ……!
「じゃあ、俺も入ってくる。好きに過ごしてくれていて構わないから」
「あっ、あの!迷惑じゃなければ、夕飯作ります!」
突然の私の言葉に、仁科さんは「夕飯?」と少し驚いた様子で聞き返す。
お風呂に入りながら、考えた。こんなにも親切にしてくれる彼に、返せることはないのかなって。
その結果考えついた答えが、料理。
すごく得意というわけではないけれど、人並みには作れるし。