世界はまだ君を知らない
そのお皿に盛り付けたのは、あんをかけた和風のオムライスだ。
冷蔵庫には意外といろいろ食材があって、玉ねぎ、ベーコン、きのことごはんを出汁と醤油で味付け、卵で包んでみた。
これだけ食材があるということは、きっと彼も普段から自炊をしているのだと思う。
キッチン姿……似合いそうだなぁ。
冷蔵庫からお茶のボトルを取り出す仁科さんを見つめて、そんなことを考える。
「短時間で作るとはすごいな、しかも美味そうだ」
「仁科さんのお口に合えばいいですけど」
褒められ、えへへと笑う私に、仁科さんはお茶をふたつのグラスに注ぎリビングへ戻る。
そしてソファに腰を下ろす彼に続いて、私も遠慮がちに少し距離を置いて座った。
「でもすごく積もって停電したりしなくてよかったです。私暗いの苦手で」
「そうなのか?」
「はい。さらに言うと雷も苦手だから、台風の時期は大変で」
改めてこうしてふたりきりになると、緊張してしまうのか、無意識に口数が多くなる。
けれど普通を装って、私は彼と「いただきます」とスプーンを手にした。
ちら、と横目で仁科さんを見ると、オムライスをひと口食べたその横顔は、少し緩む。